■肥満によって血流量が多くなる
肥満になると身体が大きくなるので、血液量も増えています。心臓が1回に押し出そうとする血液の量が血流量で、これが多くなると血圧が上がります。
血液を全身に巡らせるのは心臓の働きで、心臓がポンプのように血液を押し出すわけですが、肥満して前よりも大きくなった身体のすみずみにまで酸素や栄養を運ぶ血液を送るには、前よりももっと大きな力で心臓が血液を押し出さなくてはいけないからです。
心臓の力が強くなれば、血管の内壁にかかる血液の圧力も大きくなります。それで、血圧が上がるのです。
■肥満と脂肪と高血圧
身体の脂肪自体も血圧を上げる原因です。生理活性物質である「アディポカイン」を、内臓脂肪が活発に分泌することによって、血圧が大きく上昇することが分かっています。
アディポカインには、善玉アディポカインと悪玉アディポカインがあるのですが、悪玉アディポカインは血管を収縮させてしまう作用があるので、その結果血圧を上昇させてしまいます。
さらに、善玉アディポカインの一つである「アディポネクチン」は、減少するとインスリン(インシュリン)の効きが悪くなってしまいますので、腎臓の塩分排泄能力が低くなってしまい、その結果、塩分濃度(ナトリウム濃度)が上昇するのです。
血液は「塩分濃度を薄めよう」として大量の水分を補充してきます。結果として、血液量が増大して血圧が上がることになるのです。
また、肥満になって内臓脂肪が増えると、脂肪細胞にある中性脂肪が分解され、血液中に放出される血中遊離脂肪酸が増えます。通常であれば遊離脂肪酸は肝臓で中性脂肪と合成されて、最終的にはまたエネルギーとして消費されるはずなのです。
しかし、肥満している場合、内臓脂肪が多いため肝臓に流れ込む遊離脂肪酸そのものが増えているので、結果的に合成される中性脂肪の量も増えてしまいます。すると、肝細胞に取り込もうとするインスリンの働きが低下してしまい、その結果、高血圧を招くことになります。
■原因不明の高血圧
血圧を正常に保つシステムが乱れて、高血圧という状態が起こる原因は、肥満をはじめとしてさまざまです。糖尿病性腎症に伴う腎性高血圧などのように、はっきりと原因が分かる高血圧を「二次性高血圧」といいます。
しかし、実は、このタイプの高血圧症は日本の高血圧患者全体の1割もいません。日本人の高血圧症の9割は、どんな検査をしてもはっきりとした原因が特定できない「本態性高血圧」なのです。
これは生活習慣をはじめとするさまざまな要因が複雑に絡み合っているからだと考えられています。
■喫煙が招く高血圧
タバコを吸うと、30分もすれば血圧が上がります。そして、喫煙習慣があると身体がなじんで血圧も上がらなくなる、ということはありません。
また、何度タバコを吸っても、本数に関係なく、吸うたびに血圧が上がるのです。血圧の変動を24時間調べた研究でも、喫煙者は吸わない人に比べて血圧が高く、同じ喫煙者でも喫煙した日は吸わないでいた日より高いという報告があります。
喫煙と血圧の因果関係は、タバコに含まれるニコチンが交感神経を刺激して血管を収縮させ心拍数を増加させることにあります。つまり、心臓の心拍数が増えてより多くの血液を送り出すため、血管に圧力がかかり、血圧が上がるというわけです。
タバコは動脈硬化を進行させます。高血圧も動脈硬化の悪化因子です。喫煙が健康に良くないというのは、このダブルパンチからも理解できるでしょう。
■塩分過剰と高血圧
塩分の排出がうまくいかなくなると、浸透圧の関係で、循環血液量が増えるため、血圧が上がります。私たちの身体を構成する細胞の内部にはカリウムが、外にはナトリウムが多く存在していてその濃度は常に一定に保たれています。
余分なナトリウムが入り込むと外へ放出し、同時にカリウムを取り込むという調整システムが働いているからです。
しかし、濃い味付けが好きだったり、スナック菓子などの塩分の多いものをたくさん食べたりしていると、ナトリウム過剰になり、この調整システムの働きも弱くなります。
すると、次第に細胞内のナトリウム濃度が上昇し、何とか濃度を一定にしようと浸透圧の関係で、濃度の高い方へ水が取り込まれるため、血流が増えるというわけです。つまり血圧が上昇します。
塩分(ナトリウム)は私たちが生きていく上で欠かせないミネラルですが、1日1gとれば十分です。
しかし、現在、日本人は1日10gを越えて摂取しています。とる塩分量は1日10g以内、血圧が高い人は少なめの、6~7g以内にしたいものです。
■運動不足と高血圧
運動不足は肥満を招き、肥満が血圧を上げるという悪循環が生じます。その他にも、運動不足になると血液の循環も促進されないので、その分心臓に負担がかかり、血圧も高くなりがちです。
運動をすると一時的に血圧は上がりますが、適度であれば、むしろ血管の緊張をやわらげて血圧を下げます。
■その他ストレスや環境に応じて変動する血圧
血圧は、たえず変化しています。例えば、朝は活動に備えるように上がり始め、日中の動いている時間帯では高くなります。そして、夕方から夜にかけて次第に活動しなくなると血圧は下がり、睡眠中は安静状態になるのでさらに低くなるという変化を示します。
基本的に日中は高く、夜間は低いというリズムを繰り返しますが、その時々の心身の状態に反応し、細かく上下しています。
例えば、カーッとなって怒ったり、とてもうれしいことがあって喜んだりして興奮すると高くなります。また、遅刻しそうになって猛ダッシュしたり、熱い湯に浸かったりしたときも高くなります。
このように血圧は、緊張、驚き、ストレスなどの心理的影響や、食事、運動、入浴といった動作で激しく変動します。
ですから、一度血圧を測って高かったからといって、すぐに高血圧とは断定しません。その後で再び測定すると適正な値に下がっていることがあるからです。いつも血圧が高い状態が持続していることが「高血圧」なのです。
■血圧を調整するシステム
私たちの身体には、血圧が変動したときに、一定の範囲内にとどめようとするフィードバックシステムがあります。
この仕組みは、血圧が上がり過ぎては困るので、上がった血圧を元に戻そうと働く安全装置ともいえます。
例えば、激怒してカーッとなると血圧が上がりますが、気持ちが落ち着くと血圧も下がります。私たちの体内には血圧を調整する仕組みがあり、自律神経、ホルモンなどがこの役目を担っているからなのです。
つまりカーッとなって怒ると、怒りという興奮が自律神経の一つである交感神経を刺激して、その末端からノルアドレナリンという神経伝達物質を分泌します。このノルアドレナリンの働きで、心臓の拍動が増し、血圧が上昇します。
しかし、気持ちが落ちついて怒りが薄らいだり消えたりすると、もう一つの自律神経である副交感神経が働いてアセチルコリンという神経伝達物質を分泌します。すると、心臓の拍動も落ち着きを取り戻し、血圧が下がるのです。
このように血圧は上がりっ放しにならないで、元に戻るようになっているわけですが、血圧の調整機能がおかしくなると、怒りが収まって気持ちは落ち着いたのに血圧は高いまま、ということになりかねません。
つまり、血圧を正常に保つシステムが乱れてしまい、一定の基準以上の高さで持続している状態が「高血圧」というわけなのです。
その大切な自律神経のバランスを崩してしまうのが、生活習慣の乱れです。運動不足・偏った栄養バランス・睡眠不足・ストレス・タバコ・深酒などです。